痛くない10cmヒールパンプスは作れるか?①
ヒールの高いパンプスを履いて、颯爽と歩ける人に憧れます。
しかし、私の場合、大抵のハイヒールは足を入れた瞬間に小指に激痛が走ります。
歩くどころか、立っていることも困難です。
主な原因は、おそらく下記の2点です。
①足囲が合っていないため前滑りしている。
私は開帳足なうえに足囲がBのため、市販の靴では幅が広すぎてほぼ確実に前滑りします。
(市販の靴の足囲はだいたいD以上です。)
②靴のつま先の形状が、足に合っていない。
私の足のつま先の形状は、スクエア寄りのエジプト型です。
ポインテッドトゥやアーモンドトゥの靴を履いてみたいのですが、いずれも向いていません。
そこで、自分の足の足囲とつま先の形状に合わせて作れば、ヒールが高くても痛くない靴が作れるのか?を試してみたいと思います。
今回は、10cmヒールに挑戦します。
さっそく、足のデータを採ります。
以前に下記の記事でご紹介したように、足の写真を撮影し、そこから足の3次元形状データを作成します。
3dprinter-shoemaking.hatenablog.com
出来上がった足のデータがこちらです。
さすがに10cmヒールだとものすごい傾斜です。
次回は、足の形状データに合わせて、木型の3Dモデルを作っていきます。
【1足目】仮靴作り
3Dプリンターで出力した木型の出来栄えを確認するため、仮靴(試し履き用の靴)を作っていきます。
まずは、木型に靴のデザイン線を描き込みます。
今回はプレーンパンプスなので、履き口の線のみです。
もっと凝ったデザインの場合は、切り替えの位置や穴飾りなどもすべて描き込みます。
デザイン線を基に、縫い代や吊り込み代を付けて型紙を起こします。
革に型紙を載せて裁断していきます。
仮靴は試し履き用の一度しか履かない靴なので、できるだけハギレを使って作ります。
革にキズがあっても気にせず、ぎっしり詰めて裁断します。
今回の表側の革は、蛇柄プリントの牛革です。
派手ですね・・・
表の革と裏の革を、まずは別々に縫って組み立てます。
裏と表の革を縫い合わせたら、靴の上側部分は完成です。
次に、木型の底の形に合わせて中底(地面に接する靴底と足の間にある部材)を削り 、木型に釘で固定します。
次は吊り込み作業です。
木型に縫い合わせた革をかぶせ、中底に釘で留めていきます。
吊り込みが終わったら、本底(地面に接する靴底)を取り付けます。
靴の傾きが狙い通りになるように、ヒールの高さを微調整します。
最後に、靴から木型を取り外し、ヒールを取り付けたら仮靴の完成です。
次回は、このパンプスのオーダー主であるKさんに仮靴を履いてもらい、木型の出来栄えを確認します。
【1足目】3Dプリンターで木型をプリントアウト
3Dプリンターで木型をプリントアウトしていきます。
使用する3Dプリンターは下から樹脂を積み上げるタイプです。
積み上げやすさを考えて、かかとから出力していきます。
プリントし終わるとこんな状態です。
3Dプリンターの床部分に木型のかかとが張り付いているので、ぺりぺりはがします。
木型の底面に鉄板を取り付けたら完成です。
この鉄板は、靴作りの「吊り込み」という工程において重要な役割を果たします。
吊り込みの工程では、かかと周りの革を靴底に釘でとめていきます。
この時、釘の先端が木型の鉄板に当たって曲がることで、靴底と革がかしめられます。
木型のてっぺんから出ている輪っかは、木型を靴から抜くときに引っ張るための針金です。
針金は靴底の鉄板とつながっています。
一般的な木型には、このような穴が開いており、この穴に工具を引っかけて、靴から木型を引っ張りだします。
しかし、同じ構造の木型を3Dプリンターで出力してみたところ、引っ張る力に耐えられず、穴の部分が壊れてしまいました。
そうなると、木型が靴から抜けなくなり、かなり困った状況になります。
針金の輪っかのせいで見た目がかなり格好悪くなっていますが、木型が抜けないよりはマシです・・・
しかし、針金を取り付けるのが手間なので、この構造は改良する必要がありそうです。
次回から、仮靴の作製に入ります。
【1足目】木型データの作成
足の形状データを基に、木型のデータを作成していきます。
木型データの作成に使用しているのは、3DCGソフトです。
灰色の物体が足の形状データ、赤い立方体が木型データの元になるものです。
赤い立方体を、粘土をこねるように木型の形に近づけていきます。
↓
木型らしい形になってきたら、足の形状データと木型データを重ね合わせて、さらに形を整えます。
↓
まだカクカクしていますが、これでほぼ完成です。
木型から、足型がはみ出してしまっていますが、これは失敗ではありません汗
靴は足を挟むようにして支える必要があるため、木型は足型を少し細くデフォルメしたような形になります。
最後に、表面を滑らかに仕上げて完成です!
次回は、木型を3Dプリンタでプリントアウトします。
【1足目】足の3次元形状データの測定
靴作りには、靴の元となる木型が必要です。
職人さんは、木を削って作るのですが、私にはその技術がありません汗
そこで、3Dプリンターで木型を作製します。
木を削って木型を作る場合、足の色々な箇所の寸法をメジャーで測り、その寸法を基に木型を作ります。
一方、3Dプリンターで木型を作る場合は、3Dスキャナで測定した足の3次元形状データを基に木型を作ります。
しかし、市販の3Dスキャナはなかなか高価です。
そこで、手間はかかりますが、スマホのカメラを使って足の形状データを採っていきます。
人間の目は、右目と左目から見える景色のズレによって、景色を立体的に認識することができます。
これと同じように、ある物体を違う角度から撮影した2枚の画像から、その物体の3次元形状データを得ることができます。
違う角度から足を撮影し、
画像をPCに取り込んで処理(少しややこしい話なので割愛)します。
すると、このような足の形状データを得ることができます。
次回は、足の形状データを基に木型のデータを作成していきます。
【1足目】足長・足囲の測定
まずは、足長と足囲を測ります。
足長は、かかとから足の指の一番長いところまでです。
足囲は、親指と小指の付け根の骨が一番出っ張ったところを通るように測ります。
Kさんの測定結果は、下記の通りでした。
【右足】
足長:24.7cm
足囲(体重をかけた状態):22.4cm
足囲(体重をかけない状態):19.9cm
【左足】
足長:24.3cm
足囲(体重をかけた状態):23.3cm
足囲(体重をかけない状態):20.7cm
体重をかけた状態とかけない状態に分けて足囲を測るのは、開帳足(筋肉が衰えて柔らかくなった足)の度合いをみるためです。
2つの足囲の差が1.2cm以上だと、開帳足であると言われています。
Kさんは両足とも約2.5cmの差があるため、かなり柔らかい足と言えます。
パンプスは紐靴などと違い、足を覆っている部分が少ない靴ですので、靴の長さだけでなく、幅も足に合っていないと脱げてしまいます。
通常、パンプスは、体重をかけた状態の足囲よりも靴の足囲が1cm細くなるように作られます。
このように、実際の足囲よりも細く靴を作ることを「"ころし"を入れる」と言い、"ころし"によって靴を足にフィットさせ、靴の中で足が前滑りしたり、脱げたりするのを防ぎます。
しかし、Kさんの場合は足が柔らかいため、"ころし"が1cmだけでは効果が弱く、前滑りしたり脱げてしまう可能性が高いです。
そのため、Kさん用のパンプスは、通常より多めに"ころし"を入れる必要があります。
次回は、3Dプリンターで木型を作製するために、足の形状データを採っていきます。
【1足目】冠婚葬祭用 黒のプレーンパンプス作り
今までは自分用の靴ばかり作ってきましたが、今回初めて自分以外の人(知人のKさん)の靴を作らせていただくことになりました。
履く人の足に合わせてゼロから作るフルオーダーの場合、次のような手順で靴を作っていきます。
①足の測定
②木型(=靴のもとになる型)作り←ここで3Dプリンターを使います。
③仮靴(=木型の出来栄えをみるための試作品)作り
④木型の修正
⑤本番の靴作り
Kさんの希望は、冠婚葬祭に使える黒のプレーンパンプスです。
シャープな印象の靴がいいけれどポインテッドトゥは苦手・・・
とのことでしたので、つま先の形状はアーモンドトゥに決まりました。
ヒールの高さは、疲れにくさを重視して4cmで作製していきます。
完成予想イメージ
次回は、まずは「①足の測定」からです。